column
2025.7.4
街を楽しくする 場所の自由 楽しく働く

「梅小路で会いましょう vol.2」KBL THE GARAGE

清永麻実(京都R不動産)
 

場づくりのこれまでとこれから

梅小路エリア、七条通から少し入ったところ。「スープの冷めない距離の斜め前」と言ったほうが、むしろしっくりくるかもしれません。第一弾でご紹介したシェアキッチンのすぐ近くに、今回ご紹介する KBL THE GARAGE があります。かつて倉庫として使われていた建物の1階に、2024年5月、クラフトビールのお店としてオープンしました。その3階には、私たち京都R不動産のオフィスも入っています。運営するのは、Kyoto Beer Lab(以下KBL) の村岸秀和さん。大きく開かれたシャッターの奥には、思い思いにクラフトビールを楽しむ人々の姿が見え、前を通るだけでなんだかうれしい気持ちになります。

オープン前のKBL THE GARAGE。全面開放され、誰でも気軽に入店できる雰囲気。3階に見えるのが京都R不動産の事務所。

この場所との出会いのきっかけをつくったのは、「梅小路まちづくりラボ」の藤崎さん。出店場所を探していた村岸さんが「どこかいい物件はないかな?」と知人たちに声をかけていたところ、この建物を紹介されたそうです。「理想を言えば、天井はもう少し高い方がよかったんですが、それ以外は申し分なくて。ここならやれるな、と思いました」とのこと。KBLの1号店は高瀬川沿い、下京区の東側に位置しますが、今回のGARAGEは同じ下京区でも西側。エリアを広げる意味でも、2店舗目の場所としてしっくりきたそうです。

ブルワリーから店舗を臨む、作られている工程が見えるのは興味深い

町家から和束町、そして茶ビールへ──場づくりの原点

「場をつくる」ことに関わり始めたのは、大学時代のこと。町家再生の現場で、大工やボランティアスタッフとともに解体・改修の作業に加わり、自ら手を動かしながら経験を積んでいったそうです。その後に立ち上げたNPO法人「クリエーターズジャパン」では、これまでに200軒を超える空き家の改修に携わってきました。

そうした活動の中で出会ったのが、京都府南部の和束町。「空き家を活用して新たな人の流れをつくれないか」という町からの相談がきっかけでした。シェアハウスの構想をもとに、現地での提案や改修を進めるなかで、「地域の魅力をどう発信するか」という新たな問いが立ち上がります。そこで目を向けたのが、町の特産品である「お茶」。「お茶のビールを飲んでみたい」――そんな思いつきから、挑戦がはじまりました。好奇心を原動力にした試作からスタートし、やがて本格的な取り組みへと発展。そして、“茶ビール”が完成します。当初は他の醸造所に製造を委託(OEM)し、イベントなどで販売していましたが、原価が高く、継続的な運営には課題があったそうです。「人に頼んで利益が出ないなら、自分たちでつくろう」と考え、醸造所の立ち上げを決意。試行錯誤を重ねながら、少しずつ自分たちの手でビールをつくり、提供できる体制を整えていきました。

左は、和束町のお茶を使ったKBLの看板商品・茶ビール。右はKBLで展開するオリジナルの缶ビールシリーズです。

現在も和束町との関係は続いており、茶葉を使ったビールの製造に加え、茶葉由来のエッセンシャルオイルの開発にも取り組んでいます。また、町家改修をきっかけに移住した人や、ボランティア活動を通じて出会った人同士が暮らし始めたという例もあるそうです。空き家という「場」が人と人をつなぎ、新たな暮らしや関係を育んでいく。この活動は、まちづくりの理想形のひとつをすでに体現しているのかもしれません。

梅小路というまちでできること

KBL THE GARAGEがある梅小路エリアは、観光地の中心から少し離れた、住宅と商店が混ざり合う地域。地元の方と観光客がちょうど半々ほどの割合で訪れ、落ち着いた日常の空気が流れています。

「近くでは八百屋さんが野菜を並べていたり、うなぎの香ばしい匂いが漂っていたり。そういう空気感が好きなんです」と語ってくれた村岸さん。七条通を歩いていると、昔ながらの商店や建物にふと足を止めたくなることもしばしば。まちを歩いたあとに、最後にGARAGEで一杯。そんな過ごし方も、この場所ならではの魅力です。「市場の中ももっと深く知ってもらえるような仕掛けができると、さらに面白くなりそうですよね」と話すその姿からは、まちそのものを楽しむきっかけを日々探している様子が伝わってきます。

オープン当日は、多くの人が祝福に訪れ、店内は終始にぎやかな雰囲気に

代表の村岸さんも来てくれた方々をあたたかくお出迎え

地域とともに、静かに育つ場所へ

観光と日常がゆるやかに交わるこの場所で、KBL THE GARAGEは、人とまちの新たな接点を生み出しています。梅小路を歩いた帰り道にふらっと立ち寄って、ビールを一杯。そんな気軽な関わりの中に、まちの魅力を再発見する時間があります。人とのつながりを大切にしながら、土地とまっすぐ向き合い、関係を丁寧に育ててきた村岸さんの姿勢が、この場所に流れるやわらかな雰囲気を形づくっているのだと感じました。

ビール好きも、ちょっと苦手な人も。きっと「おいしい」と感じられる一杯です

クラフトビールと相性抜群のフードも、しっかり揃っています

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