column
2025.11.10
街を楽しくする 場所の自由 楽しく働く

「梅小路で会いましょう vol.4」梅小路ACWA (ACWA BASE×Lykke)

清永麻実(京都R不動産)
 

七条通を少し西へ。通りに面した建物を開けると、外と中の境目がすっと消えます。ここが「梅小路ACWA」。今回お話を聞いたのは、1階の拠点「ACWA BASE」を切り盛りする齊藤さん(株式会社アグティ代表)と、2階の居場所「Lykke(リュッケ)」を運営する波多野さん(合同会社Shutchohoiku代表)です。

動きながら周りの人の様子をきちんと受け止めて、その場を整えていく齊藤さん。そして、20年の保育経験を土台に、夜間・週末の短時間預かりや“同時体験”のコラボなど、託児の枠を少し広げる実験に挑む波多野さん。2人の視点を通して見えてくるのは、計画を立て込みすぎない、この界隈の回り方。やってみて、続けて、必要なら直す。そのサイズ感で、今日も場所が動いていました。

まちにひらいた、小さな拠点をひとつ

使う人それぞれが心地よさを見つけられるように整えられた場所。イベントのときは人が集まり、平日は作業や打ち合わせの場にもなる「ACWA BASE」は、使う人によって表情を変える、余白のある空間です。運営の中心にいるのは齊藤さん。段取りの早さと、周囲へのさりげない気配り。その両方が自然にあって、やりたい人が現れたら、必要なことを過不足なく、すっと形にしていきます。「まずはやってみる」。その姿勢が、この場所の空気をつくっていました。動かしながら整えていく、その軽さが、この界隈の空気とよく合っているように感じました。

人が自然と集まり、耳を傾ける時間。ひらかれた説明会のひとこま。

何をしている場所?

1階では、洗濯物を“たたむ”仕事を起点に、ふらっと寄れる関係づくりを試しています。午前中は子育て中の方が中心。人数は日によってまちまちですが、常駐スタッフがカバーすることで、無理なく続けられる運営に。一方で、「子育て層に偏りがち」「男性や高齢の方は来にくい」などの課題も素直に共有しています。将棋やカードゲームなど、世代が混ざるきっかけも探りながら、できるところから少しずつ。大きく構えず、日々の温度で調整していく場所です。

幼稚園に送り届けたあと、洗濯物をたたみに集まったママたちの自転車がずらり。

使い方のルールはシンプルに

イベントや展示、ワークショップ、ちいさな音楽会まで。企画は紹介ベースで増えています。合言葉は「おもろい人に貸す」。公募はしていませんが、人づてに話が広がるぶん、場の空気は自然と保たれています。施工の途中には、近所の方に向けて説明会を開き、どんな場所をつくるのか見に来てもらう時間を設けていました。その人の出入りの中で少しずつ手を加えてきたため、空間にはその過程のあたたかさがそっと残っています。直しながら、足しながら、また使う。ACWA BASEは、そんなふうに育ってきた場所でした。

学生に向けて梅小路ACWAの説明をする齊藤さん。

2階「Lykke」のこと

建物の2階にあるのが、波多野さんが運営する「Lykke」。従来の託児を少し広げ、「大人の託児所」というアイデアにも挑んでいます。本人は「子どもが特別に好き、というタイプではないんです」と率直に話しますが、だからこそ“安心できる距離感”を大切にしているのが印象的でした。短時間預かりの間に、近くの美容室でヘッドスパを受ける——そんな“同時体験”のコラボも始まっています。2024年には「保育ギフト」の取り組みで府知事賞子育て関連事業賞を受賞。保育士が「誰かの自己実現の裏方」だけで終わらず、自分の得意や興味も活かしながら働ける場をつくりたい、と話します。子どもを見るだけではなく、自分自身の感性や経験を活かせる“預かり+体験”という形が、Lykkeでの挑戦につながっていました。

人工芝の屋外スペースでの一枚。波多野さんのつくる “安心して遊べる場” がここにも広がっています。

壁に大きくお絵かき。LYKKEならではの自由さです。

2人に聞く、この界隈の空気

齊藤さんが最初に抱いたのは、「働く人のまち」という印象。市場や工場、配達の車。暮らしと仕事が同じ地平にあって、少し雑多。でも、その分だけ熱量が近い。ここで“働く”を起点に関係をつくるのは自然だと感じたと言います。波多野さんは、梅小路公園には来ていたものの、七本松から西側には用事がなく、これまで足が向かなかったと話します。通うようになって気づいたのは、ローカルなルールや、ちょっとした声のかけ合い。名前を覚えてもらうまでの距離感、イベントをきっかけに顔が見えるようになっていく日々。「なんかいるな」と思ってもらうところから、少しずつ関係が育っていく。2人の話を聞いていると、この界隈は“偶然”がよく転がっているまちだと思います。隣のテントの人が次の協力者になったり、イベントで交わした何気ない会話から次の企画が生まれたり。計画しすぎず、その場のライブ感で動くほうがうまくいく——ACWA BASEとLykkeのやり方は、このまちに合っているのだと感じました。

梅小路に根ざして

用事の前後にふらっと立ち寄れる、無理のない距離感。歩いて数分のKBL THE GARAGEやKyoto Makers Garageとも、ゆるやかな行き来が生まれています。市場帰りの買い物客、近所の職人さん、子育て中の方や学生まで。肩肘張らず混ざれる余白が、ここにはあります。計画を詰めすぎないまま、今日は誰が来るだろう、何が起こるだろう——。そんな風通しのよさが、この界隈の日常をつくっています。ACWA BASE× Lykkeのまわりには、これからも小さな偶然が静かに積み重なっていくのだと思います。

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