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2026.7.7
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「梅小路で会いましょう vol.5」Wine Room 17

清永麻実(京都R不動産)
 

七条通を歩いていると、赤いストライプのテントが目に入ります。窓の向こうには、壁一面に並んだワインボトル。2022年にオープンした「Wine Room 17」です。ワインショップと聞くと、詳しくない人には少し入りづらい印象があるかもしれません。けれどこの店は、通りから中の様子が見え、扉を開けるとすぐに店主の伊藤さんが迎えてくれます。「ただでさえワインショップって入りにくいじゃないですか。だから、隠れ家的な店にはしたくなかったんです」

壁一面に並ぶワイン。好みや予算を伝えながら、一本を選ぶことができます。

七条通沿いに立つWine Room 17。赤いストライプのテントが目印です。

「このままじゃいかんな」から京都へ

伊藤さんは三重県で生まれ、主に愛知県で育ちました。高校卒業後はトヨタ系の会社に約8年間勤め、その後、名古屋で飲食の仕事に携わります。30歳を前にした頃、心の中にあったのは「このままじゃいかんな」という思いでした。「もう一回、ちゃんとやろうと思って」愛知県内に限らず仕事を探していたなかで、目に留まったのがフォーチュンガーデン京都のオープニングスタッフ募集でした。京都に強い憧れがあったわけではありません。「京都じゃないといけないということは、全然なかったんです。どこでもよかったんですよ」履歴書を送り、住み慣れた東海地方を離れて京都へ。2012年、30歳のときのことです。

気づけば、ワインの方へ

フォーチュンガーデン京都で働き始め、伊藤さんが本格的に向き合うようになったのがワインでした。ソムリエ資格を取ろうと思ったのも、最初は仕事の延長線上。「ちょっとかっこいいな」という気持ちもあったそうです。ところが、資格を取得したあとも学び続けるうちに、気づけばワインそのものに夢中になっていました。「資格を取ることがゴールになる人も多いんですけど、僕は取ったあとに、気づいたらハマっていたんです」もともと抱いていた「いつか、ひとりで何かをやりたい」という思いと、好きになったワインが少しずつ結びついていきます。約9年間働いたあと、独立に向けて大阪のワインショップへ。京都から2年間通い、仕入れや値付けなど、酒販店の仕事を学びました。店名の「17」は、伊藤さんにとって縁の重なる数字です。誕生日は17日。シニアソムリエ資格を取得したのも、会社員時代に年間MVPを受賞したのも2017年。高校時代に憧れていたサッカー選手の背番号も17番でした。当初は、フランス語で17を意味する「dix-sept(ディセット)」を使い、「ディセット・ワインルーム」にしようと考えていました。しかし、「なんて読むの?」と何度も聞かれたため、覚えてもらいやすい現在の名前に。伊藤さん自身は「ワインルームじゅうなな」と呼んでいますが、「セブンティーン」と呼ばれても、今では特に訂正していないそうです。

ぶどう畑を訪ねたときの一枚。ボトルの向こう側にある、ワインが生まれる現場にも足を運びます。

シャッターが開いていた日

店を開く場所を探し始めた頃、伊藤さんはすでに梅小路の近くで暮らしていました。街中で競合するよりも、生活圏に近い場所で店を構えたい。そして、ワインは難しいと思われがちだからこそ、裏通りの隠れ家ではなく、人の行き来が見える大通り沿いにしたいと考えていました。ただ、この辺りではテナントの募集がほとんど出ていなかったそうです。そこで伊藤さんは、七条通周辺を自分の足で歩いて探しました。ある日、普段は閉まっていた建物のシャッターが開いていました。中をのぞくと、店をするのにちょうどよさそうな空間。しかもその日は、建物のオーナー夫妻が偶然、片付けに来ていました。「この辺でワインショップをしたくて、物件を探しているんです」その場で声をかけ、その後も電話をして話を進めます。物件を見つけた2日後には、まだ契約も決まっていないなか、勤め先へ退職の意思を伝えました。酒販免許の申請に時間がかかることを知っていたため、必要な書類は事前に準備。物件を取得するとすぐに申請し、工事と並行して手続きを進めました。シャッターが開いていたことは偶然でした。けれど、中にいる人へ声をかけたことも、その後も連絡を続けたことも、すぐに動けるよう準備していたことも、偶然ではありません。

自分の足で歩き、直接声をかけて出会った場所。外から店内が見える、まちにひらかれた店になりました。

ワインの入口を、まちにひらく

Wine Room 17を訪れるのは、ワインに詳しい人ばかりではありません。「すっきりした白がいい」「軽い赤が飲みたい」。そんな大まかな言葉から、伊藤さんが一緒に一本を選んでくれます。「ワインマニアを増やしたいわけではないんです。普段あまり飲まない人にも、ワインっておいしいなと思ってもらえたら」だから、ワインバーではなくワインショップを選びました。すでにワインが好きな人だけではなく、これまで縁がなかった人にも、最初の一本を手渡せる場所にしたかったのだそうです。その入口は、店の外にも広がっています。「スープの冷めない距離」でのワイン営業や、毎月のワインセミナー。資格を取った若い人に講師を任せ、学んだことを人に伝える場もつくっています。

「スープの冷めない距離」でのワインバー営業。いつもの店を離れることで、新たな出会いも生まれます。

店の外へ出ることで、ワインに触れる新たなきっかけも生まれます。近隣のお店と始めた食のイベント「㐂(ヨロコビ)」も、最初から大きな計画があったわけではありません。近くの惣菜店「Marufuku KYOTO」さんと「何かやってみようか」と話し、周りのお店に声をかけたことから始まりました。「やらないより、やった方がいいかな、くらいだったんです」今では多くの人が訪れる催しに育ちましたが、伊藤さんにとって大切なのは、イベントの規模ではありません。近所のお店を知るきっかけになり、その後の日常につながっていくこと。地域に少しでも還元できることです。

近隣のお店への小さな声かけから始まった「㐂(ヨロコビ)」。今では、多くの人が行き交う地域の催しになりました。

これからについて尋ねると、「自分でワインを輸入してみたい」という話のあとに、こんな言葉が続きました。「でも、無理はしたくないんです。ぼちぼちでも、ちゃんと続けていけたら」店舗を増やしたいわけでも、事業を大きくしたいわけでもない。一方で、ワインを楽しむ人や、次の世代が経験を積める場所は少しずつ増やしていきたい。伊藤さんは取材中、「たまたま」と何度も話していました。京都に来たこと。ワインに夢中になったこと。この場所を見つけたこと。けれど、履歴書を送らなければ京都には来ていません。資格を取らなければ、ワインの奥深さに出会っていません。シャッターの向こうにいた人へ声をかけなければ、この店も生まれていませんでした。偶然に出会ったとき、それを通り過ぎず、自分の方へ引き寄せる。そんな一歩の積み重ねの先に、Wine Room 17はあります。

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